はじめに
猫免疫不全ウイルスは猫のエイズウイルスとも呼ばれますが、これは、最初に人間のエイズに似た病気を発症した猫で発見され、ウイルスもヒト免疫不全ウイルス(HIV)に似たものであることがわかったためです。ただしその後の研究で、HIVとは別のウイルスであることがわかり、また感染した猫は全部がエイズになるわけでもないことがわかりました。したがって、このウイルスに感染した猫をすべて「猫エイズ」と呼ぶのは不適切ですし、ましては「エイズが移る」などといって感染した猫を捨ててしまうなどもってのほかです。さらに、猫白血病ウイルスと似た病気を起こすことも多く、両者が正しく区別されないこともあります。このウイルスに対する正しい知識を身につけ、正しい対処法を理解して下さい。
病原ウイルス
レトロウイルス科、レンチウイルス属、猫レンチウイルス群の猫免疫不全ウイルス(Feline immunodeficiency virus: FIV)が病原体です(図8)。
FIVはどんなウイルス?
猫にしか感染しない猫固有のウイルスです。遺伝子の解析によれば、人間のエイズウイルスとは同じ仲間ではあるものの、非常に遠い関係にあります。犬と猫の共通の祖先の動物から猫科が分かれた時に、すでに猫科動物にはFIVの祖先が感染していたようで、ライオンやチータなどの大型の猫科動物にも、特に病気は起こさないけれどFIVと非常に近縁のウイルスがみつかっています。FIVは猫の体外では非常に不安定で、室温では数分から数時間で感染力を失ってしまいます。ただし排泄物などで湿った敷物などでは、やや長く感染力を保つこともあります。太陽光線、紫外線照射、熱などで簡単に死んでしまい、次亜塩素酸ナトリウム、ホルマリンをはじめ、アルコール、洗剤、第4級アンモニウム塩などで殺すことができます。 |